

- 住所
- 〒100-8405 東京都千代田区丸の内一丁目5番1号
- Web
- https://www.agc.com/
- 設立
- 1950(昭和25)年6月1日
- 事業
- 「ガラス」「電子」「化学品」「ライフサイエンス」「セラミックス・その他」の事業領域を幅広く展開。
AGCはグローバルトップシェア製品を数多く有する総合素材メーカーです。1907年に創立、祖業である板ガラス生産から始まり、時代の変化に合わせて、世の中で必要とされる素材・ソリューションを提供してきました。現在ではグループで30を超える国と地域において、ガラス、電子、化学、ライフサイエンス、セラミックスなど幅広い分野で事業を展開しています。
こうした多岐にわたる事業を支えるために、長期経営戦略「2030年のありたい姿」の実現に向け、下記4つの施策を柱に「価値創造DXの推進」を掲げておられます。
・お客様と連携したデータ基盤の構築
・デジタルツインによる安定操業と最適化
・生成AI等の活用による業務改革
・デジタル資産の地域間、事業間の共有
この取り組みの一環として、AGC株式会社の化学品カンパニーにおける主力工場の一つである千葉工場(基礎化学品からフッ素樹脂「Fluon🄬」や環境対応型冷媒「AMOLEA🄬」などに代表されるフッ素系高機能製品を生産)にて、2022年度にデジタルツインソリューションを持つ、日揮グループのブラウンリバース社が提供する3Dビューア「INTEGNANCE VR(インテグナンスVR)」を導入いただきました。
今回は、INTEGNANCE VRを導入した背景やその効果について、活用推進をリードするAGC株式会社千葉工場にて製造を主担当とするファイン1課の吉田圭甫様、原田直輝様、ファイン2課の川端駿弥様、村上雅樹様、そして千葉工場のDX推進をサポートする化学品カンパニー経営戦略本部DX推進室の琴谷淳様、矢部太裕様にお話を伺いました。(部署名および肩書は取材当時のものです。)
目次
人口減少時代に備えた課題認識と対策の必要性
千葉工場では年間12,000件ほど発生する保全作業計画にあたり機器配置や配管ルート確認のために図面や現地に出向くなど、紙と現場の往復で非常に多くの時間を取られていることが喫緊の課題でした。
また、これから本格化する人口減少時代へ備えるためにも効率化の必要性を強く感じていました。今後、労働人口の減少が避けられない中で、限られた人材で持続的に業務を遂行していくためには、ツールの整備と業務の効率化が不可欠です。特に、業務の標準化や自動化を進めることで、属人性を排除し、誰もがスムーズに業務に参画できる環境を整えることができます。また、ツールの導入は単なる効率化にとどまらず、多様な人材を受け入れるための基盤づくりにもつながると考えています。たとえば、育児や介護と両立しながら働く方、外国籍の方、未経験者や協力会社など、様々なバックグラウンドを持つ人々が活躍できる「選ばれる職場」を実現するためにも、ツールの整備は重要なステップだと捉えています。もちろん、こうした取り組みは業務効率の向上という前提のもとに進めており、結果として生産性の向上や働きやすさの向上にもつながると確信しています。
“INTEGNANCE VRの最大の魅力”は「使いやすさ」と「導入ハードルの低さ」
『三現主義(現場・現物・現実)』を尊重しながらも、これらの課題を充足するツールの検討を進める中で「使いやすさ」と「導入ハードルの低さ」を持ち合わせたINTEGNANCE VRと出会いました。
INTEGNANCE VRの具体的な魅力について吉田氏は次のように語ります。
「これまで様々なデジタルツインシステムを試してきましたが、動作が重かったり、PCの起動からシステム利用までに時間や手間がかかったりと、数多くの課題を感じていました。そんな中でINTEGNANCE VRに出会い、使い心地やコスト、導入までのスピード感など、これまで抱えていた懸念点の多くが解消されました。製造に関わる誰もが便利だと感じるシステムだと直感し、その日のうちに予算申請書に手が伸びたのを今でもはっきりと覚えています」(ファイン1課:吉田氏)
他社製品と比較して、導入ハードルの低さも社内で推進していきやすいポイントだったと、矢部氏(DX推進室)は振り返ります。
「他社システムでは、撮影と撮影したデータを閲覧するためのビューアが別々のサービスになっていることが多い印象でした。撮影を自分たちで実施したり、協力会社に依頼したりと、導入のハードルが高いと感じる部分がありました。しかし、INTEGNANCE VRの場合は、撮影からデータ管理までワンストップで依頼できます。その点が、通常の現場業務で忙しい中でも推進しやすく、導入の後押しになりました」(DX推進室:矢部氏)
工程数削減に貢献、工事計画の新定番INTEGNANCE VR
千葉工場では、INTEGNANCE VRを導入したことで、業務の効率化が進みました。今回はその中でも特に効果の高かった設計業務について吉田氏(ファイン1課)にお話を伺いました。
「既設プラントの大幅な改造工事の検討にINTEGNANCE VRを活用しました。機器を全て取り外して据え付ける内容でしたが、測長機能や空間シミュレーション機能を活用して、工事を実施しました。実際に現地に確認に行かなくても、VRを見ながら施工会社や関連部署とディスカッションすることが出来たので非常に便利でした。現場確認をなくすことが目的ではなく、INTEGNANCE VRで事前に現場情報を確認し、実際の現場確認ポイントを整理してから現場確認をすることにより、現場確認の効率も向上しました。その効果もあり、無災害かつ工期通りに、残業の少ない理想的な工事を実現できました」(ファイン1課:吉田氏)
VR活用による作業時間削減
試算例:製造部から設備管理部に保全作業を依頼する事例

※現場確認とは、異常発見から工事着工までの間に、製造・保全・協力会社など関係者が現場へ赴き、異常状況の確認や対応方法の検討を行う一連の作業を指します。
上記以外にもINTEGNANCE VRの活用事例として「国内外の打ち合わせ時の業務短縮」や「運転・保全業務の効率化」、「若手の教育・育成教材」など工場メンバーを中心に各メンバーの働き方が改善され、本社ならびに現場から高い評価を受けているといいます。

DX推進室の戦略とは?現場との密な協力で進めるDX普及
同社のDX推進室と生産現場の連携は深く、「DX事例の横展開」や「DX相談会」など、現場へのデジタル支援体制が確立されています。こうした親身なサポートが、現場のDX推進に対する士気の高さにつながっています。INTEGNANCE VRの活用推進においても、DX推進室の支援が大きな役割を果たしていると、ファイン2課の川端氏は話します。
「DX推進室の協力も得ながら、チームへの意識付けを丁寧に行っています」(ファイン2課:川端氏)
INTEGNANCE VRの活用推進時に気を付けたポイントについて、DX推進室の琴谷氏と矢部氏は次のように語ります。
「現場で活用してもらうためには、導入時のサポートが欠かせません。INTEGNANCE VRが導入された直後は、空間がクリアな状態で使い方が分からないため、当初はDX推進室で対象エリアに情報を付与していきました。具体的には、機器リストのインポート、タグ付け(位置情報の追加)、さらに『配管NAVI』機能を使って配管に線を引き、ラインナンバーを付与するといったユースケースの提案を行いました。こうした取り組みを進める上で、現場の熱意ある社員を巻き込むことが不可欠です」(DX推進室:矢部氏)
「当社では2か月に1回、千葉・鹿島工場でそれぞれ開催されるDX相談会などで現場の悩み事を定期的にピックアップする座組があります。過去にファイン1課の吉田さんが実施していたINTEGNANCE VR社内紹介などの活動も、現在ではDX推進室が引き継ぎ、DX相談会をはじめとした様々な社内広報の場を活用し横展開を図っています」(DX推進室:琴谷氏)

工事計画の最適化
千葉工場では、製造部門(ファイン1課、2課)から始まり、いまや協力会社も含めた工場関係者全員でINTEGNANCE VRを活用しています。工場の業務に関わる人々にアカウントを開放することで、VRの運用価値を最大化していると矢部氏は語ります。
「INTEGNANCE VRはAGCに関連する全ての人が利用することで、その価値は最大化すると考えています。そのため、協力会社の方にもアカウントを付与できるように、情報管理や権限設定などの課題をクリアし、利用できる制度を構築しました。事務所内を歩いていた際、製造スタッフの画面にINTEGNANCE VRが映っているのを目にし、『しっかり活用されているんだ』と感じました。こうした場面を通じてツールの定着と活用の広がりを実感しています。」(DX推進室:矢部氏)
ファイン1課の吉田氏は特徴的なINTEGNANCE VRの使い方として以下のように語ります。
「当社は協力会社の方にも制限付きのアカウントをお渡ししています。具体的なユースケースとして、腐食配管更新の見積作成時に、これまで現場で確認する必要があった作業を、INTEGNANCE VR上で完結できた」
「施工会社からINTEGNANCE VRで工場内を確認できるようになり、非常に便利になったと言われています。施工会社から提出される現地のレイアウト資料に、VR上で表示される青色のダイヤマークが入っており、VRを利用しているのだなと気が付きました。協力会社の事務所と現場は離れた距離にあるため、現場確認の移動時間削減に役立っていると思います」(ファイン1課:吉田氏)
多くの企業が目指しながらも、セキュリティ上の課題から実現が難しいとされる協力会社へのアカウント展開。しかし、同社はこの難題を克服し、先進的な取り組みを実現しました。成功の鍵は、徹底したセキュリティ対策にあります。INTEGNANCE VRへのアクセス権限を細かく設定し、各施工会社が必要な情報のみ閲覧・編集できる仕組みを構築。また、同社の要望を受け、ブラウンリバース社は脅威検出サービスを導入し、INTEGNANCE VR利用時の不正アクセスリスクを大幅に低減しました。さらに、上層部の理解を得るための丁寧な説明や、段階的な導入によるリスク管理を徹底。これにより、情報管理体制を強化し、安全かつスムーズな社外アカウント展開を実現しました。
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INTEGNANCE VRに期待すること/今後の展開
INTEGNANCE VRの今後の開発に対して、ファイン1課・ファイン2課の担当者の間では、単なる視覚的なデジタルツインを超え、「リアルタイムデータとの連携」や、「より直感的な操作性」、「没入感のある空間表現」といった機能拡張に期待が寄せられています。
「私自身、ブラウンリバースの『真のデジタルツイン』を実現させたいという想いはすごく理解しています。非常に難しいとは思いますが、いつか仮想空間でプラントを動かしてみたいという思いがあります。INTEGNANCE VR にはまだ現場の運転データが入っていないので、そのデータと紐付けるところから始めたいです」(ファイン1課:吉田氏)
「以前、大規模な改造工事を担当した際に、初めて3Dモデルの再撮影を行いました。しかし、改造が常に大規模なものとは限らず、ポンプの交換など小規模な改造を頻繁に行っています。そのたびに撮影スケジュールを調整するのは負担が大きいため、スマホで撮影したデータをINTEGNANCE VRに手軽にアップロードできるようになり、ユーザー自身が常に最新の状態を更新できることを期待しています」(ファイン1課:原田氏)
「メタバース空間のような、没入感のある空間表現の実装を目指してほしいです」(ファイン2課:川端氏)
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<インタビューにご協力いただいた方について>
● 吉田氏
– 2016年 AGC株式会社へ入社。千葉工場ファイン1課に配属され、AGCで初めて「INTEGNANCE VR」を導入。現在は新規プラントの建設業務や設計・生産管理などに従事。
● 原田氏
– 2022年 AGC株式会社へ入社。千葉工場ファイン1課に配属。製造プラントのオペレーション管理やプロジェクト業務に従事。
● 川端氏
– 2017年 AGC株式会社へ入社。千葉工場ファイン2課に配属。製造プラントのオペレーション管理やプロジェクト業務に従事。
● 村上氏
– 2022年 AGC株式会社へ入社。千葉工場ファイン2課に配属。製造プラントのオペレーション管理やプロジェクト業務に従事。
● 琴谷氏
– 2023年 AGC株式会社へ入社。化学品カンパニーDX推進室に配属され、同年10月より「INTEGNANCE VR」の推進・活用に参画。現在は、化学品カンパニー全体を対象としたDXの推進に取り組んでいる。
● 矢部氏
– 2023年 AGC株式会社へ入社。化学品カンパニーDX推進室に配属され、同年10月より「INTEGNANCE VR」の推進・活用に参画。現在は、化学品カンパニー全体を対象としたDXの推進に取り組んでいる。
※インタビュー内容、役職、所属は取材当時のものです