現場確認の稼働削減
〜ダイセルが挑むデジタル保全革命〜

株式会社ダイセル
住所
大阪府大阪市北区大深町3-1グランフロント大阪タワーB
Web
https://www.daicel.com/
設立
1919年9月8日
事業
セルロース化学、有機合成化学、高分子化学、火薬工学をコア技術として、多岐にわたる事業を展開する化学メーカー

今回は、「価値共創によって人々を幸せにする」という基本理念を掲げる日本の大手化学メーカー、株式会社ダイセル、エンジニアリングセンターのお二人に、保全部門のDX戦略とインテグナンスVRの導入とその効果についてお話を伺いました。

左から株式会社ダイセル
エンジニアリングセンター 主任部員 中野 静大氏、
同センター設備技術グループ 三原 匡平氏

周期保全からの脱却 -DXで挑む予兆保全-

お二人の所属するエンジニアリングセンターは、主にプラントエンジニアリングと設備管理業務を担当している。DX着手の背景には、「さらなる設備の安定稼働とメンテナンスコストの低減・最適化」を目指す部門の方針はあるものの、これらの目的を達成するためには従来型の時間基準保全(TBM:Time Based Maintenance)や状態基準保全(CBM: Condition Based Maintenance)だけでなく、日々の蓄積された保全データを活用した予兆保全へステップアップし、設備の異常を事前に検知し、未然にトラブルを防ぐ仕組みを構築する必要があるという。
また、同時期にベテラン人材の退職による人手不足や、技術の属人化により、若手人材へのノウハウ継承が進まない課題もあった。そのため、デジタル活用によって一人ひとりの労働生産性を向上させることが大きな鍵になると中野氏は強調する。

株式会社ダイセル エンジニアリングセンター 主任部員 中野 静大氏

プラント現場が創り出すDX基盤

エンジニアリングセンターでは現在、2人を中心に、さまざまなDXプロジェクトが現場主導で進められている。目指すのは「デジタルと人が融合したハイブリッド型保全」であり、その実現には現場でのデジタル機器の活用が欠かせないという。

具体的には、IoTセンサーやスマートデバイスが発する電波が、既存設備へ与える影響を調査したほか、これまで広く設定されていた防爆エリアをプラント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン(経済産業省)に沿って再定義し、社内規則を整備した。そのうえで、構内にローカル5Gの基地局を設置し、安定したネットワークを維持できるインフラの検証まで行っている。最終的な構想としては、センサーを搭載した移動式機械が自律的にプラント内を巡回し、設備トラブルの予兆を早期に発見する仕組みを目指しており、現在網干工場の製造設備で実証試験を計画中である。

多くの企業のDX事例を見聞きしてきたが、ここまでデジタル基盤を整備しているケースはプラント業界ではまれだ。まさにお二人の取り組みは、国内プラントDXを牽引する0→1の挑戦といえるだろう。

株式会社ダイセル エンジニアリングセンター 設備技術グループ 三原 匡平氏

小さく始めて、大きく変える -DX推進の鍵は“巻き込み力”-

一方、ここまでの活動は、決して順調なことばかりではなかったと二人は話す。業務変革とは、長年慣れ親しんだやり方を一新することでもあり、ベテランからの反発は大きかった。ただ、お二人の話から感じられる推進力の源泉は「巻き込み力」だ。多くの場合、新しいチャレンジを行う際には、事前調査や説明資料の作成、関係者全員の合意形成に多くの時間をかける。しかし今回のケースでは、二人は課題解決に向けてまさにその巻き込み力を発揮し、解決の糸口となりそうなソリューションを見つけると、最小限の予算で小さく試すことから始めた。試して良ければ仲間に発信し、共感を得て仲間を増やす。その輪が広がり、個人からチーム、チームから部署単位へと浸透していくのだ。インテグナンスVRも、この巻き込み力によって多くの現場作業員に活用されているに違いない。

左から株式会社ダイセル 
エンジニアリングセンター 主任部員 中野 静大氏、
同センター設備技術グループ 三原 匡平氏

現場の可視化で変える -インテグナンスVRで加速する働き方改革-

インテグナンスVR導入の目的は、現場確認作業の負担軽減と、社内外コミュニケーションにおける認識齟齬の解消であった。2022年1月に当社代表・金丸の紹介を通じて知り、2023年6月から本格的に利用を開始した。導入の決め手は「安価かつ簡単に始められること」で、前述の「小さく始める」というスタンスに合致していたという。現在、網干工場では、約5万平米をデジタルツイン化し、50アカウントのユーザーに利用いただいている。

インテグナンスVRは、実寸大のプラント現場をPCやスマートデバイス上で手軽に確認できるため、従来発生していた“ちょっとした現場確認”の作業を大幅に削減できる。
たとえば、工事や検査前の設備状況の確認、新規装置や足場の配置シミュレーションなどを事前に行うことで、現場作業の品質向上はもちろん、事故やケガを未然に防ぐ危険予知活動にも活用可能だ。特にダイセル社では、高所確認の際に階段やラダーを登る負担を軽減し、大雨や猛暑下での確認作業も減らせたことで、現場作業員の身体的・精神的負担の緩和に大きく貢献したという。
実際の成果としては、インテグナンスVRの導入により、現場担当者1人あたりの現場確認が年間約75時間削減された。さらに今年度は、配管情報の登録も予定されており、現場確認にかかる時間はさらに短縮される見込みだ。

加えてダイセル社では、インテグナンスVRの活用によって、作業員間の認識齟齬も大きく解消された。従来、設備トラブル発生時の社内会議では、図面やP&IDを中心に対策案を議論していたが、インテグナンスVRを活用することで、ピンポイントで、トラブル発生箇所を共有できる他、周辺の機器や配管情報を参加者全員が共通認識を持ちながら、具体的な対策を議論できるようになった。これにより、経験の浅い社員や検査や工事をお願いしているパートナー企業とのコミュニケーションも円滑になったと二人は語る。

現場目線のDXパートナーへ – インテグナンスVRへの期待

最後に、お二人にインテグナンスVRへの期待を伺った。
現場に寄り添った保全業務への深い理解、顧客の声に真摯に応える姿勢、そしてスピード感ある開発体制――これこそがブラウンリバースの強みだという。

当初は1装置群からスモールスタートしたインテグナンスVRも、今年度は新たに10万平米の追加撮影を検討中で、他部署からの強い要望を受け、ID数も200IDへ拡張する予定だ。今後は、若手人材の教育や他工場との情報連携、リモート支援などへの活用をさらに進め、最終的には製造業の働き方改革を支える基盤となることを期待している――そんな熱いメッセージをいただいた。

今後も、ダイセル社エンジニアリングセンターのDX推進の行方に注目したい。

※インタビュー内容、役職、所属は取材当時のものです

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