コスモ石油の中長期ビジョン「Vision 2030」が描くDX戦略、INTEGNANCE VR活用で現場確認作業を大幅削減 

サイトエンジン株式会社
住所
東京都千代田区神田神保町1-7-11
日本文芸社ビル6F
Web
https://www.siteengine.co.jp/
設立
2008年8月
事業
デジタルマーケティング支援
コンテンツ制作

コスモエネルギーグループは、脱炭素社会への移行とエネルギーの安定供給を両立し、新たな価値を創造することを目指して、中長期ビジョン「Vision 2030」を策定しました。このビジョンの実現に向け、「①石油事業の競争力強化と低炭素化」、「②グリーン電力サプライチェーンの強」、「③次世代エネルギーの拡大」の3つの施策を推進しています。 

同グループの中核企業であるコスモ石油では、施策の一つである「①石油事業の競争力強化と低炭素化」に向けて、製油所のデジタルプラント化による高効率化を目指しています。その一環として2022年度にデジタルプラントのUI/UXに、日揮グループのブラウンリバース社が提供する3Dビューア「INTEGNANCE VR(インテグナンスVR)」の導入方針を決定し、2023年度から導入を開始しました。現在は、全製油所(千葉市、四日市市、堺市)の3D化を進めており、2024年度から段階的に運用を開始しています。 

今回は、「INTEGNANCE VR」を導入した背景やその効果について、デジタルプラント構想の推進をリードする本社工務部保全戦略グループの久保田真実氏と藤原諒氏に話を聞きました。 

コスモ石油「INTEGNANCE VR」導入の狙い 

コスモ石油の工務部保全戦略グループは、「安全操業・安定供給」を目的にデジタルトランスフォーメーション(DX)を積極的に推進し、装置オペレーションや保全の高度化を図ることをミッションとしています。設備の保全や検査などに関する戦略立案・実行・管理を担い、デジタルプラント構想の推進によりAIなどの最新のデジタル技術を活用した「自立自走する製油所」の創造を目指して活動しています。 

近年、同社の製油所においては、業務効率化と働き方改革が重要な課題となっています。これに対応するため、3Dビューア「INTEGNANCE VR」の導入を決定しました。具体的には、次の効果を期待しています。 

<定量的効果> 
・現場確認作業、情報共有、資料作成などにかかる業務の効率化が進み、年間110時間/人の削減効果が見込めると想定。特に現場確認作業の省力化、作業指示書の作成負担軽減、社内外の情報伝達の効率化を期待している。 

<定性的効果> 
・事業所では、人材維持・新規採用の観点から時代に即した働き方の改革が課題として求められている。「INTEGNANCE VR」の導入によって、100%出社型ワークからリモートワークの併用が可能となり、柔軟な働き方が実現できる。 

現場確認作業と誤認識によるミスを大幅削減 

2024年度から、全製油所にて「INTEGNANCE VR」の利用が開始されました。導入初期の段階では、「現場に行かずとも、現地の状況を把握できる」という最大の利点を生かし、工事計画における現場確認の代替や社内外の打ち合わせ、防災訓練などに活用しました。これらによって、圧倒的な時間削減が期待できると藤原氏は話します。 

「例えば、図面にない現地情報として周辺の環境情報があります。実際の現場に行ってみると、周囲に隣接する配管や構造物などがあり、それらは実際に現地で確認するしか方法がなく、その作業だけで0.5〜1時間もかかっていました。しかし、『INTEGNANCE VR』を活用することで、この作業が5~10分で完了するため、製油所で活用するメリットは非常に大きいと考えています」 (藤原氏) 

これまで工事計画における関係者との打ち合わせでは2Dの紙図面を使用していましたが、VRを活用することで、実際の現場にいるかのような視覚情報を共有しながら議論できるようになりました。 

「『INTEGNANCE VR』を使うことで、コミュニケーションに間違いが起きにくくなりました。VRなら実際にものを見なくてもサイズや距離を測定でき、関係者間の認識のズレが減り、ご認識によるミスを防ぐことができます」(藤原氏) 

<「INTEGNANCE VR」の導入効果>

  • ・現場確認作業を大幅削減 共通認識の質の向上へ
  • ・現場確認作業の効率化
  • ・誤認識防止とミーティングの精度向上

機器内面の3Dモデルデータは貴重な教材

「INTEGNANCE VR」による現場確認は、設備の外面だけでなく、機器の内面にまで及びます。現在、定修時に解放されるボイラーやFCC(流動接触分解装置)の内面の3Dモデル化に着手しており、今後の活用シーンについて久保田氏は次のように語ります。

「機器内面で発生する劣化やチューブなどの形状変化は、ベテラン社員から教えてもらうことはあっても、実際に目にする機会はほとんどありません。当社では、製油所の人材の若返りに成功している一方で、現場の判断に不安を抱える若手社員も少なくありません。普段見えない部分の可視化することで、若手の保全レベル向上のための教育にも有効だと考えています。また、機器内面のデータを定期的に取得することで、運転状況と設備の劣化・形状変化の相関を分析し、例えば次回の定期整備(開放検査)の状況をシミュレーションすることで、事前対策を講じることを期待しています」(久保田氏)

各製油所からも、内面データの可視化に対する期待は大きく、すでに高い関心が寄せられています。今後は、撮影する装置や設備の拡大や定期的な撮影によるデータ蓄積などを進め、高度な教育やシミュレーションにつなげたいと意気込んでいます。

直感的な操作が定着を後押し

コスモ石油が『INTEGNANCE VR』を採用した決め手は、標準ツールとして活用できる簡単な操作性、リーズナブルな費用感、そして製油所の3Dモデル化をワンストップで実現できる点にあります。

「近年、様々なシステムを導入しDXを推進してきましたが、最も現場の社員が頻繁に活用していると実感できるのが『INTEGNANCE VR』です。その理由のひとつが、直感的で分かりやすい操作性にあります。まるでGoogleのストリートビューのような感覚で、誰かに使い方を教わることなく自然に使い始められます。特に現場からは、『目に見える形で情報を把握できるため、スムーズに活用できる』『複雑な手順を覚える必要がなく直感的に操作できる』といった声が多く寄せられています。このように、誰でも手軽に利用でき現場の作業を支援できるという点が『INTEGNANCE VR』が高く評価されている理由ではないでしょうか」(久保田氏)

働き方改革のツールとしても期待

コスモ石油では、DX推進の一環として、VR技術が製造業と雇用環境に与える可能性に注目しています。その意義について、同社の久保田氏は次のように語ります。

「雇用環境への貢献を期待しています。生産年齢人口が大きく減少する中、人に頼る運営から、自立自走する製油所への転換が求められています。さらに現在、就活生の8割が在宅ワークを希望しており、リモートワーク対応など柔軟な働き方への変革も課題です。この課題を解決するために、デジタルプラント構想の実現は必要不可欠だと考えています。サイバー空間上で業務を行う1つのツールとして『INTEGNANCE VR』があり、蓄積したデータを活用することで、より適切な操業判断を実施できる環境を目指しています」(久保田氏)

このように、VR技術を活用したデジタルプラント構想は、次世代の製造業と雇用環境の変革に大きな可能性をもたらしており、その動向が注目されています。

本社から各製油所へ。推進しやすい仕組みづくりが鍵に

コスモ石油が推進するデジタルプラント構想は、本社工務部の久保田氏、藤原氏、吉井氏、そして各製油所の推進リーダー3人を含む計6人により少数精鋭チームで推進されています。このチームを支えるため、動きやすい仕組みを整え、プロジェクト体制を構築したと久保田氏は語ります。

「コスモ石油の強みは機動力(フットワーク)の良さにあります。また、新しいデジタルツールを取り入れやすい企業風土も大きな特徴です。体制構築のポイントとして、まず推進リーダーの発言力を強化するため、プロジェクトオーナーに常務取締役を、各製油所の推進責任者には所長を配置しました。これにより、従来の枠にとらわれない業務フローの変更にもスムーズに対応できました。もう1点のポイントは、『INTEGNANCE VR』の構成要素である写真や3D点群データにおける管理体制の早期整備です。具体的には、プロジェクトの規模に見合った情報管理の体制を迅速に整備しました。この取り組みには、コスモホールディングスの情報システム部の責任者を加えるとともに、他部門からは安全や技術ラインの部長クラスもプロジェクトメンバーとして参画しています。こうした体制により、迅速な意思決定が可能となり、プロセスプラント業界におけるDX推進をリードする形を築くことができています」 (久保田氏)

今回のデジタルプラント構想は本社主導で進めながら、各製油所の現場と協力体制をしっかり構築できたことが、その後のスピーディーな進展を支えています。推進側の地道な体制整備が成果を生み出し、プロジェクト成功の鍵となっていることは間違いありません。

デジタルプラント構想の今後と期待

久保田氏と藤原氏を含むプロジェクトメンバーは、デジタルプラント構想の実現に向けて、既存のDXツールの機能改善要望の収集や、新たな業務フローの策定など、今後の展開に向けた定期的な打ち合わせを重ねています。

両氏ともに製油所での経験を活かし、現場が本当に求めている機能や利用方法を積極的に提案し、さらに提供事業者との調整にも尽力しています。

最近の取り組みとしては、「INTEGNANCE VR」の特許技術である「配管NAVI機能」を活用し、流体ごとに配管を色分けすることで配管管理の精度を向上させるアイデアや、AIと気象情報を組み合わせてトラブル時の安全ルートを算出する機能の開発提案など、現場に即した具体的な要望が挙がっています。最後に、久保田氏はブラウンリバース社との今後の取り組みについて、次のように語りました。

「ブラウンリバースはプラントエンジニアリング会社である日揮グループとして、プラント建設やメンテナンス分野を基盤とした現場のニーズに添ったサービス開発に大いに期待しています。さらに最近では、新しい取り組みにも積極的で、VRにアバターを出現させるデモを実施するなど、チャレンジ精神にあふれる姿勢を見せてくれています。配管NAVIに代表される、現場のニーズに応える機能開発だけでなく、アバターのように『VRを通じて仕事を楽しむ』という観点を取り入れたモノづくりの姿勢には、非常に感銘を受けています。この姿勢は、DXを推進し雇用環境の改善に取り組む我々にとって多くの学びが得られます。今後、当社内で『INTEGNANCE VR』のユースケースを増やしつつ、社員にとって魅力的な機能開発をブラウンリバースと一緒に検討していきたいと考えています」(久保田氏)

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<インタビューにご協力いただいたお二人について>

●久保田氏
入社当初、四日市製油所の製造部門へ配属。当時は「現場に行く・現物をみることが大事」と上司に教わったという。その後、本社の供給部門へ異動し、製油所の生産管理を支援。現在、工務部で保全戦略の一環として製油所のDX推進に尽力している。久保田氏はVR上のプラントをみて、今までの常識が覆され、衝撃的だった旨を語る。「数年ぶりに製造・工務部門へ戻ってきたら、いつの間にか世の中の状況が変わっていた。たしかに現場現物が最も大事ではあるが、当時3Dもあればもっと業務効率化ができただろうと思い、とても印象に残っています」(久保田氏)

●藤原氏
前職は検査会社に勤務。2018年コスモ石油株式会社へ転職。四日市製油所で工務部設備課へ配属され静機器の設備管理業務に従事。2023年から本社へ異動し、工務部 保全戦略グループにてDXを中心とした製油所の保全業の支援をメインに行っている。
製油所のイノベーションを推進し、仲間の喜びがモチベーションの源泉であると語る「製油所で実現したかったことを本社から後方支援し、現場が改善されていくことにやりがいを感じています」(藤原氏)

※インタビュー内容、役職、所属は取材当時のものです

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